百鬼夜行とは?読み方は「やぎょう」「やこう」どちらも正しい|暦と絵巻
百鬼夜行(ひゃっきやぎょう/やこう)とは、夜に妖怪が列をなして歩くという言い伝え。辞書によって主見出しの読みが逆になります。『大鏡』の用例、遭遇して助かった尊勝陀羅尼の説話、月ごとに決まっていた「百鬼夜行日」、現存最古の真珠庵本まで解説します。
文・三森 捷暉

この語には面白い点がいくつもあります。読みが二通りあって、辞書によって主見出しが逆であること。遭遇する日が暦で決まっていたこと。そして遭って助かった話が残っていること。この記事では、その一つひとつをたどります。
百鬼夜行 早見表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方 | ひゃっきやぎょう/ひゃっきやこう(どちらも辞書にある) |
| 意味① | 夜、多くの妖怪が列をなして歩き回ること |
| 意味② | 多くの怪しい者が勝手に振る舞うことのたとえ |
| 古典用例 | 『大鏡』(12世紀) |
| 説話 | 『今昔物語集』巻14第42話・巻24第16話/『宇治拾遺物語』1-17 |
| 出没する日 | 『拾芥抄』に月ごとの「百鬼夜行日」 |
| 現存最古の絵巻 | 真珠庵本(室町時代16世紀・重要文化財) |
読み方は、辞書によって主見出しが逆
「ひゃっきやぎょう」か「ひゃっきやこう」か。よく議論になりますが、辞書を引くと決着がつきません。
- 『デジタル大辞泉』——主見出しは「ひゃっき‐やこう」
- 『精選版 日本国語大辞典』——主見出しは「ひゃっき‐やぎょう」
きれいに逆です。どちらか一方が正しいという説明は、根拠がありません。文脈や慣れで選んで差し支えないところです。
古典に現れる百鬼夜行
もっとも古い部類の用例が、『大鏡』(12世紀)にあります。
この九条殿は百鬼夜行にあはせたまへるは
「九条殿(藤原師輔)が百鬼夜行に遭遇なさったのは」——つまり実在の貴族が遭遇した出来事として語られています。当時の人にとって、百鬼夜行は「昔話」ではなく、夜の都で実際に起こりうることでした。
説話としては、『今昔物語集』巻14第42話「尊勝陀羅尼の験力によりて鬼の難を遁るる事」、同巻24第16話(安倍晴明が幼少期に百鬼夜行を察知する話)、『宇治拾遺物語』1-17「修行者百鬼夜行にあふ事」などが知られます。ほかに『江談抄』『沙石集』巻5にも記述があります。
遭って助かった話 ― 尊勝陀羅尼の説話
百鬼夜行に遭えば命はない、とされました。ところが助かった話が残っています。
貞観年間(859〜877年)、藤原常行が美福門付近で約100の鬼に遭遇します。ところが彼は無事でした。理由は、乳母が僧に書かせた尊勝仏頂陀羅尼を、衣に縫い込んでおいたからだというのです。
この説話が示すのは、文字が身を守るという発想です。護符を身につける、九字を唱える——同じ系統の考え方が、ここにもあります。書かれた言葉に力が宿るという前提を、当時の人々は共有していました。
「百鬼夜行日」― 出る日は決まっていた
これは意外に知られていません。百鬼夜行が出る日は、暦で決まっていたのです。
『拾芥抄』が記す百鬼夜行日は、次のとおりです。
| 月 | 出る日 |
|---|---|
| 正月・二月 | 子の日 |
| 三月・四月 | 午の日 |
| 五月・六月 | 巳の日 |
| 七月・八月 | 戌の日 |
| 九月・十月 | 未の日 |
| 十一月・十二月 | 辰の日 |
「子子午午巳巳戌戌未未辰辰」と暗誦したと伝わります。
つまり百鬼夜行は、避けられる災いでした。その日の夜に出歩かなければよい。鬼門を避けるのと同じで、危険を暦と方角に落とし込んで、扱えるものにする——これが陰陽道的な発想の要です。
百鬼夜行絵巻
視覚的なイメージを決定づけたのが絵巻です。
現存最古とされるのが、大徳寺塔頭・真珠庵が所蔵する真珠庵本(室町時代16世紀・重要文化財)。古道具が妖怪になって列をなす様子が描かれています。
作者を土佐光信とする伝えがありますが、これは伝承であって確証はありません。断定している解説は根拠を確かめたほうがよいでしょう。
真珠庵本のほか、大阪市立美術館本、日文研本、東京国立博物館本、ニューヨーク公共図書館スペンサー本、国立国会図書館本、チェスター・ビーティー本など、多数の異本が伝わります。それだけ繰り返し写された題材だったということです。
なお絵巻に描かれるのは、多くが古い道具の妖怪——付喪神です。百鬼夜行と付喪神は、絵巻のなかで深く結びついています。
転じた意味 ―「政界は百鬼夜行」
第二の意味も押さえておきましょう。多くの怪しい者たちが勝手に振る舞うことのたとえです。
「政界は百鬼夜行のありさま」といった使い方がこれで、江戸期の雑俳(1828年)にすでに転義の用例があります。妖怪の話をしていなくても成立する、便利な四字熟語です。
夜、いっせいに押し寄せてくるもの
百鬼夜行が夜に描かれたのは、偶然ではないでしょう。
昼は抑えられていたものが、暗くなると列をなして戻ってくる。この感覚には、千年の前例があります。眠ろうとすると、後悔も不安も心配も、順番に立ち上がってくる。一体ずつなら対処できるものが、行列になると手に負えなくなる。
だから昔の人は、出る日を決め、避ける方法を用意しました。私たちにできるのは、行列になる前に一体ずつ書き出しておくことくらいかもしれません。
夜に考えごとが止まらないときや眠る前のモヤモヤもあわせてどうぞ。
出典・参考
- 『デジタル大辞泉』小学館/『精選版 日本国語大辞典』小学館(「百鬼夜行」の項)
- 『大鏡』/『今昔物語集』巻14第42話・巻24第16話/『宇治拾遺物語』1-17
- 『拾芥抄』(百鬼夜行日)
- 百鬼夜行絵巻 真珠庵本(大徳寺塔頭真珠庵蔵・重要文化財)
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よくある質問
Q.百鬼夜行の読み方はどちらが正しいですか?
どちらも正しい読みです。『デジタル大辞泉』は「ひゃっきやこう」を主見出しに、『精選版 日本国語大辞典』は「ひゃっきやぎょう」を主見出しにしています。辞書によって扱いが逆なので、一方が誤りということはありません。
Q.百鬼夜行とはどういう意味ですか?
夜、多くの妖怪が列をなして歩き回るという言い伝えです。転じて、多くの怪しい者たちが勝手に振る舞うことのたとえとしても使われます。「政界は百鬼夜行のありさま」のような使い方がこちらです。
Q.古典にはどう出てきますか?
『大鏡』(12世紀)に「この九条殿は百鬼夜行にあはせたまへるは」という用例があります。説話としては『今昔物語集』巻14第42話、巻24第16話、『宇治拾遺物語』1-17「修行者百鬼夜行にあふ事」などが知られます。
Q.百鬼夜行に遭ったらどうなるのですか?
命を落とすとされました。ただし助かった話も伝わります。貞観年間、藤原常行が約100の鬼に遭遇した際、乳母が衣に縫い込んでおいた尊勝仏頂陀羅尼のおかげで難を逃れた、という説話です。
Q.百鬼夜行が出る日は決まっていたのですか?
『拾芥抄』に月ごとの「百鬼夜行日」が記されています。正月・二月は子の日、三月・四月は午の日、五月・六月は巳の日、七月・八月は戌の日、九月・十月は未の日、十一月・十二月は辰の日です。
この記事を書いた人
三森 捷暉みつもり かつき
株式会社スリスタ 代表/ドヤマーケAI 運営
実務で使えるAIサービス群「ドヤマーケAI」を運営し、記事・広告・営業・人事からAI検索可視化までを手がける。YouTubeチャンネル『SaaSは死にましぇん』を発信。感情を書いて手放すアプリ「呪い日記」の企画・開発者。
この記事は民俗・言葉・文化の解説です。医療・法律・宗教上の助言ではありません。伝承は文化として紹介するもので、他者を害する手順を推奨するものではありません。出典のない通説は「俗説」と明記しています。
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